オフィシャルサイト特別インタビュー

「最近は、より本能に忠実に生きている感じがします」
違和感を原動力に鳴らせ『東京、這う廊』
オルタナティヴな最新作を篠山浩生(vo&g)が語る――
THURSDAY’S YOUTHオフィシャルインタビュー

Suck a Stew Dryとしての活動に終止符を打ち、新たなキャリアをスタートさせ約8ヵ月。THURSDAY’S YOUTHが初のフルアルバム『東京、這う廊』を完成させた。1st EP『さよなら、はなやぐロックスター』で感じた予感を確信に変える、メランコリックでオルタナティヴな全15曲は、篠山浩生(vo&g)の人生観と音楽的好奇心を見事に反映している。THURSDAY’S YOUTHの、そして、『東京、這う廊』の内部構造を篠山浩生が語るインタビュー。感情の時限爆弾をいくつも抱えた音楽家の行く末は、光か、闇か――。

納得がいくものなんか出したことがない

――ライブでは今作の収録曲をいち早く結構な曲数披露してたし、Twitterでも『Drowsy(ドロウジー)』(M-1)に関しては7〜8年前に書いたと言ってましたけど、時期的にはいつぐらいの曲が多いの?

「『Drowsy』が一番古いですね。実はもっと前に実際に録ろうと思ったこともあったし、ライブでやったこともあるんですけど、5人のときはやっぱり物理的に表現できなくて、今だったらできるなと思ったんで。『水曜日の出来事』(M-11)とか『さよなら』(M-15)はちょっと前で、それ以外は結構最近ですね。『水曜日の出来事』は前のバンドのときに一回会場限定で出したんですけど、どこでも買える状態じゃないものだったし、当時のアレンジにも違和感があったんで、上モノを録り直して」

――Suck a Stew Dry時代に書いた曲の中にも、THURSDAY’S YOUTHに引き継ぎたい曲はあったっていうことか。そういう意味では、楽曲を救済できる感じもしますね。

「そうなんですよね。誰がって自分でするんですけど(笑)。もちろん今はやる気のしない曲もいっぱいありますけどね(笑)」

――ブログでも“初めてくらいに、最低ラインを下回らない作品”って言ってたけど、それもまたすごい発言だなと(笑)。逆に今までどんなテンションで出してたんだっていう。

「いやもう、納得がいくものなんか出したことがない。ただ、それはこれからも多分そうだと思うんですけど、何か…自信持ったら終わりみたいな気もするので。納得がいくものを作ったら辞めちゃう気がするタイプだなと」

――そういう意味では、今まで出してきた作品の中では自信があるとは言わないが(笑)、充実感という意味ではかなり。

「はい。ただまぁ、すでにいろいろ考えちゃってますけどね(笑)」

――アハハ!(笑) アーティストあるあるの、“あそこをもうちょっとこうすればよかった問題”ってこと?

「いや、そうとも言えるんですけど、今回はアレンジにこだわって…ってこれを言ったらマイナスプロモーションになっちゃう(笑)。音楽と歌詞を秤にかけるものでもないかもしれないですけど、歌詞をもうちょい頑張りたいっていうのもヘンだけど、音楽に負けないようにしたいなぁとはすでに今思ってますけど」

――Suck a Stew DryとTHURSDAY’S YOUTHの大きな差異ってサウンド面で、その辺の欲求を満たすというか、以前はやれなかったアレンジやバックボーンがより前に出てるし、音楽的なアルバムには当然なってる。とは言え、何だか篠山くんらしいというか、逆に嬉しさもありますわ。篠山くんの中で歌詞に重きがあるんだなって再確認できたようで。

「そうですね。まぁ…だからって聴いてもらえるかは分からないんで。これは自分のよくないところだとも思うんですけど、出して聴いてもらえないときに“当たり前だな”って思っちゃうんで。そこが1つ弱点でもあるような、特徴でもあるような気もするんですけど(笑)。“もっと見てくれ! もっと聴いてよ!”って言うのって、すごく難しい…」

――でも、自分的にはいいと思ってるから聴いてほしいな、みたいな感覚はあるよね?

「最近それをよく考えてるんですけど…作ったからには聴いてもらわないと意味がないような気はするんですけど、作った時点で自分の中では1回終わってる感覚もあるんですよ。そこがね、いつも謎。自分でもよく分からないところなんですけど」

――“今までではそんなことを思ったことがなかったのに、今回は何かちょっと聴いてほしいと思うんですよね”って言ってくれると、すごく綺麗なストーリーですけど(笑)。

「アハハ!(笑) どうせ認められるなら本当の自分の方がいいとは思うんですけど、純粋に聴いてもらいたいと思う=聴いてもらったときに嬉しいなって思うはずじゃないですか? でも、自分がそう思ってる感じがしないんですよね。根本的に人とつながりたい気持ちがやっぱり薄いのかな? 音楽を通して分かり合いたいとかじゃないのかなぁって。そこを今、ずっと考えてます」

東京ってそんなに悪い街かな?って

――現体制になって曲はどんどん書けてたみたいだけど、篠山くんの中でお気に入り曲というか、手応えのある曲とかはある?

「自分は気分の浮き沈みがあんまりない方なんですけど、自分のどの曲を聴いてもクソだなって思うときと(笑)、どれを聴いてもいいなって思うときがあって。だから、よく“大切な曲です”とか言ったりする人がいるのが、前から気になってたというか。僕にはその辺の感覚があんまり分からないとちょっと思ってます」

――だいたいは、心が動くことが起きて、それが曲になる。だから、その元になる出来事が自分の人生にとって大きければ大きいほど、思い入れの深い曲にはなりがちというか。

「何も考えてないときにパッとできる曲が多いし、作ったときのことを全然覚えてないからですかね? ただ、ライブでやってて気持ちいい曲とかはあるんで、そういう意味では多少の好き/嫌いはあるかもしれないですけど」

――感情が動いたから即曲になる、とも違うってことか。例えば、何にも考えてないときに、あのときのことをふと書いてた、みたいな感じ?

「前からずっとそうなんですよね。割と鈍感なタイプかもしれないですね」

――なるほどね。時差というか、自分の痛みとか怒りにも後から気付くことが多い?

「そうですね。だから曲もそうなのかなとは思う」

――例えば、今目の前でムカつくことを言われて、すぐにキレて“お前!”とはならない?

「基本ならないですね。ただ、そのときの感情は永遠に残ってる(笑)。今思い出してもマジでムカつくなっていうことは結構ある。例えば何かが起きて、そのことを書こうとすることもあるんですけど、それを作り上げるセンスが自分にあんまりないのかなって。一応、形にはなったりするんですけど、結局やってないというか、下手したらゼロ。簡単に言えばダサいというか、何か違うなって思うことが多くて」

――日々の鬱憤とか認められない気持ちのはけ口がなくて音楽だけが救いだった、みたいなことは音楽を始める1つのきっかけにもなる。篠山くんも“理解者が全然いなくて俺が頼れるのは音楽だけだ”とか言いそうなのに(笑)。

「いや、全然なんですよね。だから、音楽に救われたなぁとか思った回数とか経験って、多分人より少ないと思う。そういう人たち見ると何だか羨ましくなるような…まぁ別に俺は俺でいいかなって思う気持ちもありつつ」

――でも、今回のアルバムには“篠山くんもこんなこと言うんだ”みたいなところもあったけど。『東京』(M-4)の“僕らの体は温かいぜ”とかは、おっと思いましたけど。

「あぁ。でも、事実なんで(笑)」

――事実だけど、それを言葉にするかどうかで。

「基本、音楽を作るときってやっぱりアンチ心が大きくて。東京ってやたら冷たいとか言われるので、東京出身としては、東京をボロクソに言われてもちょっとヤだなっていう気持ちもありつつ。そんなに地元愛もないですけど、東京ってそんなに悪い街かな?って」

――東京ってポップスにおける1つの大きなテーマにもなるけど、このタイミングで東京について書いてみようと思ったのは?

「世の中には『東京』っていう曲がいっぱいあって、やっぱり上京した人が書いてることが多かったりして。だから逆に自分は書けないだろうなって思ってたのが、何かこのタイミングでふとできたんで。何か意図があるとかじゃないんですけど」

――さっきの話もそうだけど、篠山くんの心が動いたときに感情の時限爆弾が起動して、それがいつ爆発するか分からないみたいな感じだね。気持ちが動いたらスイッチが入って、水面下でカウントダウンしてる、みたいな。

「あぁ〜確かにそうかもしれない。それが何個もあって、爆発したときに曲ができる。それは分かりやすいかも。例えば、Aメロは昔の話だけどBメロは最近だったり、1曲の中で時系列が同じじゃないことが多いのも、そういうところが関係してるのかもしれない。ぽつぽつ無差別に浮かんできたりするから。そこに今まで感じてきた“何か違うんじゃないか?”がいっぱい蓄積されてると思うんですよ。そういうものが一緒に出てきて、若干パズルっぽい感じで曲を作ってるのかなと」

――赤外線で篠山くんを見たら、感情の爆弾が身体中に巻かれてる“感情のテロリスト”的な(笑)。

「でも、音楽的にはホントそうかもなぁ(笑)」

“違うんじゃないか?”って思うことは原動力の1つ

――例えば、『東京』のアウトロのシンガロングできそうなパートとかは、どうやってアレンジを煮詰めていったの?

「リズムの感じとかは洋楽を意識しながら作っていったらスケールがどんどんデカくなって、ちょっと戻したぐらいなんですけど(笑)。今回は作り込み過ぎたくないなぁと思って、プリプロとかも細かくやらないようにして、スタジオで一発で録って。まぁ一番の理由は面倒くさかった…(笑)」

――キター!(笑) でも、あざとい言い方をすれば、フェスでシンガロングできるパートがあった方がいいから曲に入れるヤツもいる。逆に、そういうふうに連想されるからやめようっていう発想もある。ただ、あえてそうはしなかったわけで。

「実は、最初は全箇所にそれを入れてたんですけど、何かしつこいなと思って。でも、アレンジ的に最後のサビ終わりはこのままじゃやっぱり物足りない感じがして、入ってた方が音楽的かなぁって」

――なるほどね。『東京』の後には『這う廊』(M-5)と続くけど、EPのときの『さよなら』と『はなやぐロックスター』(M-9)の関係性同様、表題曲的で意味深な感じがしますけど。

「バンド名を考えてたときも、“東京◯◯”とか、そういう歌謡っぽい候補もあったりしたんで。今回は『東京』っていう曲もあるし…って同じやり口ですけど、語呂的にも『這う廊』が合うかなって。曲の流れも悪くなかったし」

――バンド名すら東京◯◯にしようと思ってたのが意外。思ったより東京に対して想いがあるんだね。

「そうですね。それも地方に行くようになってからかもしれないです。福岡に行ったときとかに、めっちゃ都会だなと思って。そしたら福岡の人は、“東京の人が何言ってんの?”って(笑)。そっか、東京ってそういうイメージなんだなぁとは思ったかも」

――で、さっきの時限爆弾論で言うと、福岡でそういうことを言われたのがちょっとずつ自分の中で。

「アハハ!(笑) そうそう。蓄積されていって」

――でも、『這う廊』って結果論かもしれないけどTHURSDAY’S YOUTHというバンドを表すのに大事な曲のような気がして。この曲はニルヴァーナの『Smells Like Teen Spirit』(’91)をどうしたって思い浮かべるけど、じゃあカート(・コバーン)が“Hello,hello,hello,how low?”と問いかけたように、篠山くんは何と問うのか、みたいなことはすごく思った。

「そうですね。“Hello,hello,hello,how low?”って…やっぱり引っ掛かりがすごいというか、印象に残ってて。別にニルヴァーナが超好きとかじゃないんですけど、思ったより自分はオルタナティヴなのかなと最近思いました。ダンサブルな曲をやるにしても、やっぱりバンドで演奏してる方が好きだったり、アンチ的に“違うんじゃないか?”って思うことは結構原動力の1つで。あと、ニルヴァーナはあの感じでめっちゃ売れたのが、純粋にすごいなと。だから発言とかも若干見たりとかして」

――“偽りの自分を愛されるより、ありのままの自分を憎まれる方がいい”ってね。

「それは自分もすごくそうだなって。信者っていう感じではないですけど何か引っ掛かって、まぁそれも爆弾の1つとして(笑)。『這う廊』のサビのメロディを思い付いて、何か“how low?”がハマる感じがして。言葉遊び的なものも元々好きなんで、『這う廊』=“How long”かな?みたいな」

――あと、この曲はスピリット的にはそうでも、曲自体は洗練されたリフとベースラインで構成されてるのが面白いね。

「アコギで曲を作ってるときに、ああいうリフのループから曲を作ることが意外と多くて。このリフの感じとかはアース(・ウィンド・アンド・ファイアー)っぽいなと思って、じゃあディスコ的なイメージ、でも生演奏で、みたいな。あとはマイケル・ジャクソンも意識しつつ(笑)」

――『Mob』(M-10)もリズム押し×ギターのクリアで乾いた音像があって。何でこの辺りが今まで表に出てこなかったんだろう? このバンドにはちょっと合わないなって引っ込めてたってこと?

「っていうのもありますね。そこはやっぱり、“こういうのは違うな”っていう無駄なフィルターを(笑)。ややこしいのがメロディはどポップなものを思い付きがちなんですよ。だから、メロディ先行で考えるとああなっちゃってた。それが求められてると思ってたし、こういうリフものはハジかれがちだったのかもしれないですね」

――個人的には『水曜日の出来事』が新鮮で、シンプルだけどちゃんとポップでいいなと。何で『水曜日の出来事』なの?

「曲を作ってた当時、周りで人が亡くなったりするのが水曜日だったんで、水曜日ってそういうことが起きがちだなぁって。何かそのとき、“また水曜だ”と思ったんですよね。何でだったんだろう?」

――日付ならまだしも曜日の方を覚えてるって不思議だね。バンド名にもTHURSDAYを付けるぐらいだし。

「何か曜日の感覚がなくなっていくのが…バンドを始めて配信をやることになったとき、当時の担当の人から”決まった曜日、時間にやった方がいい”って言われて、うるせぇなぁとか(笑)。昔から1週間が早いというか追い付けないことも多かったし、ドラマも最終回だけ見逃すことがよくあったんですけどね(笑)」

モロっちゃモロですけど。怒られるんじゃねぇか?っていう(笑)

――今回はすだっち(=須田・b)が、『明日はきっと大丈夫』(M-3) 『燃やせるゴミ』(M-7)の作曲で貢献してくれてますけど。『明日はきっと大丈夫』っていうタイトルはシニカルにも取れるけど、失ったときに自分が“普通”に近付けた気がするっていう、篠山くんの基本構造もすごく出てる曲で。

「タイトルだけを見るとちょっとポジティブなんで誤解されたらイヤだなとは思ってたんですけど、タイトルにするならこれだよなぁって。ちょっとせめぎ合いでしたけどね。あと、メンバーとデモを共有してるんですけど、すだっち。もちょこちょこ曲をアップしてて。基本的に歌詞がないので、そうなると歌詞が書けたものからやることになる。それがこの2曲ですね。『明日はきっと大丈夫』は歌詞の時系列のバラバラ感が一番あるかもなぁ。もうどれがいつの話なのかもよく分からない不安定さというか、1行ごとに違うことを言ってるぐらいの感じが自分だなって」

――その『燃やせるゴミ』には、篠山くんの“ベイビー”発言の衝撃もあったけど(笑)。

「アハハ!(笑) 歌い方もいろいろ試したりしたんですけど、何か捨てられるまではすごい下の立場にいるのに、急に上からモノを言うみたいな、その不安定さが好きなんですよね。テンパった人間のダメな姿っていう感じがしていいなって」

――愛について“ほんの少しだけ あったらいいかもな”とか、ちょっと本音が顔を出すかわいげもあるしね。

「フフ(笑)。本当に一瞬で歌詞は書けたな、これは」

――『THURSDAY’S NIGHT』(M-13)は(菊地)玄が書いた曲ですけど、何でこういうタイトルに?

「これは前のバンドの『Thursday’s youth』(’12)っていう曲を踏まえた上で、コード進行が同じ曲を考えたみたいですね。キーを変えちゃってるんで聴こえ方とかも違うんですけど。まぁ僕の歌詞じゃないからあんまり語れないですけど、やっぱり木曜日っていう中途半端さみたいなものは上手く出てる気がする。僕に合うように書いてくれたみたいで、僕は3〜4ブロック目をちょっと足したぐらいですね」

――玄作詞でも歌ってて違和感がない理由はそこなんだね。音的にも祝祭感があって、この曲でもアルバムが終われるぐらいで。ただ、初EPの1曲目=キャリアの第一歩を『さよなら』から始めたTHURSDAY’S YOUTHが、改めてこのアルバムの最後に『さよなら』を置いたとき、こういう感じに響くんだって。

「曲順もいろいろ考えてたんですけど、最後に『さよなら』があれば、もうどうとでもなるんじゃないかっていう。雑だけど(笑)」

――改めて『さよなら』と『はなやぐロックスター』(M-9)は、やっぱりそれだけのエネルギー持ってる曲だなって。ちなみに、ライブでやってるときからずっと気になってたけど、『雨、雨、雨、』(M-2)が思いっ切りスティングの『Englishman In New York』(’87)なのは何?っていう(笑)。

「アハハ!(笑) もうまんまなんですけど、あの雰囲気がすごくいいなと。また歌詞もいいんですよねぇ…だからまぁモロっちゃモロですけど。怒られるんじゃねぇか?っていう(笑)」

――過剰オマージュ(笑)。あと、この曲にはちょっとエロスを感じて。そういう目で見ると、“気にせずに口に出して”の後の“今からいってもいい?”が、全然違うように響いてくる(笑)。

「あぁ〜(笑)。エロスな曲は好きなんで、よくそういう仕掛けはやります。自分に似合うかどうかは置いといて(笑)」

――そして、この15曲がTHURSDAY’S YOUTHの1つのコースだとしたら、間に箸休め的にハッシュタグが付いた曲が3曲ありますが、このアイディアはどこから?

「まずは、1番とかAメロしかないような断片的な曲がめちゃくちゃあって。その先を作るのが果たして正解なのか、いつまで経っても先ができない=完成形がこれなんじゃないかと思って4~5分とかいう枠を取っ払ったとき、『#ゴミ箱にて』(M-6)とかは何かいいなと思ってた曲というか。プラス、録ったら歌がダブル(=二声を重ねる)みたいになっちゃった感じもよくて」

――Suck a Stew Dryの頃より、今はフォーキーな部分が出てるよね。

「元々は僕ってそっちな感じなんですよ。そこを理解してもらえたらいいんですけどね。まぁ『#花と命』(M-14)に関しては逆にこれ用にカットしたんですけど、これはこれでいいなと。この曲のアレンジはすごい迷走したんですよ。今回はマイナーコードなんですけど、ライブではメジャーコードでやってたり。だからどっちもいいなぁって。あと、原曲は何となく春に出したいなっていうのもあって。出せる保証はないですけど(笑)」

“いいレシピができたな”っていう感じ

――今回の制作的には、スランプとか行き詰まることもなくスムーズに?

「ないですね。“これ、どうしよう…”って思ったら“やめる”っていう選択肢を覚えてしまったんで(笑)。曲ならいくらでもあるし、みたいな。もう次のヤツを作りたいんですよねぇ…状況が状況なんでどうなるか分からないですけど」

――ブログにも書いてたけど、8月いっぱいで事務所を離れて自分たちでバンドを運営しているわけで。

「気が楽なのが一番かな。性に合う。そもそも人と一緒に何かすることに喜びを感じられないんですよね…バンドなんかやっといておかしなことを言ってるとは思うんですけど(笑)」

――そういう人はだいたいシンガーソングライターになってるけどね(笑)。

「だから僕はメンバーに恵まれたというか(笑)。何なんですかね? 1人でやりたいわけでもないですし」

――例えば、3人が脱退しても音楽は続ける?

「いやでも、考えることはありますね。多分止めないとは思うけど(笑)。僕が“結束”みたいなものを持つことは不可能だとは思うんですけど、みんなとやってるのは楽だし、イヤだと思うこともそんなにないし、一緒にやってくれるのはありがたいし。いやぁ~本当に協調性がないんで(苦笑)」

――いつも篠山くんにしか話を聞かないから、今度みんなに聞いてみたいね。いったいどう思ってるのか(笑)。まぁでもこうやってフルサイズのアルバムを聴いたとき、THURSDAY’S YOUTHになったのがちゃんと腑に落ちるというか。

「そうですね。今までよりは自分を分かってもらいやすいかな。やっぱり自分と違うことを言われるのがすごくイヤだったんで。間違ってるのに分かった気にならないでほしいというか」

――逆に、自分の実像と合ってたときはどうなの?

「合ってたら何も思わない」

――アハハ!(笑) “俺のことを分かってくれた!”とも思わないってこと?

「そんなに思わない(笑)。もちろん分かってくれる人といる方が居心地はいいですけど、もう何をしたら自分が親近感を覚えるのかも、最近は分からなくなってきて…難しいです」

――でも、こうやって篠山くんと話しても、コミュニケーション能力もなく目も合わさず…みたいな感じでもないし、何なんだろうね? 掴みどころはないけど体温はある、みたいな。だから誤解を招くのかもしれない。案外人間力はあるくせに、なさそうなことを言うから(笑)。

「アハハ!(笑) いやもう自分でも最近は困ってます。“どっちだよ!”って自分でも思いますもん。でも…どっちかに決めたがる人に“ん?”って思うのは、“俺、どっちもだけどな”って感じることが多いからだと思うんです。そこがアンバランスでもある」

――だからこそ、こういう音楽が生まれてるとも言えるしね。これが整頓されたときには、こういう曖昧な感情を歌うバンドではなくなるのかもしれない。でも、制作時のストレスの少なさとか、表現欲求の満たされ具合は今までとは全然違うよね?

「もう音楽的なことで言ったら、本当に全然違うと思いますね。料理にばっかり例えてるんですけど、“いいレシピができたな”っていう感じ。ただ、それを飲食店として販売するとなったらまた別の話ですけど(笑)」

――今作は歌詞の面、楽曲面も含めて、今までで一番篠山くんを感じるし、それが音楽的にも正解だったと思わせてくれたような気がします。

「だったらいいなぁ、うん」

常に“自分ってこんなもんだろう”っていうのを自覚しようとしながら生きてる

――ライブも前とは全然違う感覚でやるようになったと思うけど、今回のツアータイトルが『rain, rain, rain,』と。収録曲にも『雨、雨、雨、』がありますが、このタイトルにしたのは? 東京で雨が続いたことがあったから?

「それもあると思います。あと…雨は嫌いな方じゃないんで。今って“クラウド”時代っぽいなって思ったし。同じ音楽をどこにいても聴ける、みたいな。ツアーではもう、次の新曲もどんどんやっちゃおうかなって思ってます。録音して、CDを出して、ワンマンをやるタイム感が自分的にはすごい遅いんですよね。本当は作り終わって3回ぐらいスタジオに入って、もうワンマンやりたいですもん」

――でも、そもそも篠山くんの感情の時限爆弾の潜伏期間も長いから、いつ埋めた爆弾が爆発して、いつ人前で演奏されるのか(笑)。

「メンバーもそこら辺は、“こいつ面倒臭ぇな”って思ってる気がします(笑)。ツアーが動員的に成功するかは分からないけど、常に“自分ってこんなもんだろう”っていうのを自覚しようとしながら生きてるんで。それはそれでポジティブな気がするけどね」

――もう、ねじれたポジティブ(笑)。

「アハハ!(笑) 自分でもよく分からない自分がいっぱいいるんで、1つ1つ考えながら、その中で爆発してきたものをまた作りたいなって」

――いろんなことが分かってないのに、その気持ちだけは確かなんだね。

「そう。だからシンプルに音楽が好きなのかもしれないと思いました。最近は、より本能に忠実に生きている感じがします。音楽をやってるときもだし、基本的に全部。ものぐさなタイプなので、音楽にあれこれ着せないようにしてきてるのかな? あれこれ着せるとまたやりたくなくなってくるから」

――でも、1回は着てみよう、応えてみようって思ってたのが偉いよね。だって違うよな~って思いながらやってたわけでしょ?

「アハハ!(笑) いやぁ〜でもまぁ、やったから分かったことももちろんあるとは思うんで。心では従ってないわけですから」

――じゃあやるなよって思うけど(笑)、そんな男ですらある意味、今作で確実にギアを入れたもんね。今後が楽しみ、どうなっていくのか。

「いや、嬉しい。だからこそ、もう早く次の録音をしたいなって思うんですよね、うん」

Text by 奥“ボウイ”昌史